望    ─のぞみ─











 漆黒の闇を濃く匂わす夜半を過ぎた頃。
 日々の疲れに皆が寝静まった筈の屯所の一室で、僅かにその静けさが乱れていた。行燈の燈が僅かに室を照らし、鈍くくすぶったような雰囲気が充満していた。 帯を解いた土方の上に、帯を解かずに裾を乱れさせて足を露にした沖田が跨っていた。すでに土方の肌は紅く色づいていた。
「…俺は――傍にいられるだけで充分なんだよ、」
 あの人に何を望んでいるの。 
 沖田の土方に対する問いの答えだ。
「傍にいられるだけで充分。――はっ、よくもそんなこと云えたもんだ。」
「――どいういう意味だ、」
 明らかな侮蔑のこもった言葉に、土方は睨みを返した。
「じゃあ、アンタがいっつも見せている、あの人への狂おしいほどの視線は何なんですかィ?」
「……そんなこと、」
「俺の指を俺の肌を、何度あの人と重ねた?」
「ふざけるな!」
 きつく眉根を寄せて土方は声を荒げた。沖田から逃れようと身を起こしたが、あっさりとその手首を捕らえられ、逆に強く押し付けられた。
「……放せ、」
「いいかげん認めなせェ、」
「放せ、」
「アンタは近藤さんに抱かれたいんだ。」
「違う、」
「違わないよ。だったら何でアンタは俺に抱かれるんですかィ?……寂しいからだろィ。アンタのカラダが、本当はあの人に抱いてもらいたい身体、持て余しているんですぜ。」
 そう云って、沖田は両手を捕らえたまま、唇で土方の首から胸へと唇で辿った。土方が短く声を上げる。
「……ホラ、こんな簡単に乱れるのに、」
 土方が沖田の手に爪をたてたが、沖田は気にかけることもない。
「自覚しなせェ、自分の浅ましい気持ちを。……気付きなせェ。アンタは、あの人に、何かを望むことすらおこがましい、」
 だんだんと、土方の呼吸が乱れていく。
「アンタは、そうやって唇をかみ締めて、俺に組み伏せられていればいい。」
















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