髪    ─かみ─










 高杉は黒髪が好きだ。
 桂の、揺れる糸のような黒髪が好きだ。




 ──なぁ、髪触っていい
 ──もう触っているだろう

 昔からコイツは人の髪に触れるのが好きだった、と桂は苦笑する。
 髪を人に触られるのは不快感を感じるのであまり好きではないが、高杉に触られるのは慣れている。というか、馴らされてしまった。不思議と、不快感はない。

 ──なんでお前はそうやっていつも人の髪にやたらと触れたがるんだ
 ──好きだから

 高杉は桂の髪の端を持ち上げて、静かに口付けをした。
 これも、すでに慣れていることだ。いちいち青筋を立てていてはキリがないことに気付いたのだ。


 ──うん凄い好き

 そう云って、高杉が桂の手首を取った。

 ──おい

 桂の声を遮るように、高杉は桂の唇をふさいだ。
 桂は驚いて高杉の方を引いて躰を突き放した。

 ──おい
 ──髪の 延長延長
 ──……

 ヘラヘラと笑って、高杉が何もなかったかのように桂の髪で三つ編みをしだした。
 高杉には敵わない。
 




 ほんのささやかな仕返しをしてやろうと思い立った。
 桂は振り返って三つ編みをする高杉の手を払い、高杉の髪に触れた。

 ──何

 少し狼狽したような顔がある。
 普段からはあまり見られない表情だ。
 桂は少し愉快な気分になって、その髪にそのまま唇を落とした。

 ──仕返し

 そう云ってしたり顔で顔を上げると、顔を真っ赤にした高杉と睛があった。

 ──そういや 俺用事あるんだった

 高杉は逃げるようにして去っていった。



 ──もしかして 照れているのか
 ──意外な

 人の唇を勝手に奪うくせに、髪に接吻しただけで紅くなるというのはどういうことだろう。


 桂も、先の自分の所業だとは思えない行動に恥ずかしくなった。

















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