想    ─おもう─











 ふと気付くと、俺はあの人のことを考えている。
 あの人は漆黒の美しい短い髪に涼しげな睛を持つ。剣豪のくせして身体は筋肉質というわけではなく、また細すぎるというわけではない、ほどよい均衡の取れた躰をしている。
 一見涼風だという印象を受けるが、本当は優しい、そして誰よりも仲間思いであることを、俺は知っている。
 俺は、多分あの人のことがすきなんだと思う。きっと、出会った日からずっと。
 いつもふざけてしまうのは、あの人に構って欲しいから。跨って殴られる、その時に下からあの人を見上げるのが好きなんです。そんなことを云ったら、きっと変態、と一蹴されて終わりだろう。
 だから、少し秘めておく。この思いは、誰にも云わない。
 人を好きになるのは幸せなことだ。
 あの人が笑っていると、俺は嬉しい。あの人が少し沈んでいると、非常に俺も寂しくなる。妙なことだとは思うけれども。
 俺は何時もあの人を見詰める。そっと。
 だから知っている。
 あの人が、いつも何処を見ているか。
 俺があの人を見詰めるように、あの人も誰かを見ているということを。青い炎のような静かな熱い想いを抱いていることも。仲間という立場が、きっと二人の均衡を保っている。
 俺も、あの人が自分の上司だから、この危うい均衡を保っていられるのだ。もしもあの人と俺との間に身分の差がなければ、俺はきっとあの人を壊してしまう。自分だけを見て欲しいと。縛り付けてあの人を独占したい。まるで人を想うにしては許しがたい感情を覚える。
 そんな自分が浅ましいと思う。
 そんな自分を、あの人を好きで好きで堪らない自分を、愛しいと思う。
 けれど。
 あの人は、誰かを好きで好きで堪らないという想いを、自分には不要なモノ、あってはならぬ感情だと思うのだろう。そんな情けない感情など持ってはいけない、と。
 俺はそういった感情の方が情けないとは思うのだけれども。
 自分を認めることが出来ない、内の心と外の心の食い違いに悩むあの人のことを愛しいと思う。
 たとえその想いが、自分に向けられているのではないと解っていても。
















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