バレンタイン 




 今日は七時間授業。
 七時間目は銀時の授業だった。睡眠不足から机に突っ伏して寝ていた高杉は、授業が終わり目覚めた時に、机の上に手紙を発見した。銀時からのメモだっった。
 「少し放課後付き合って」
 別に初めてではない。返事は必要なく、拒まなければ、それは肯定となる。
 
 裏口の玄関に腰を下ろして銀時を待つ。暫く現れなかった。すでに待ち時間は一時間を越え、もう六時になろうとしていた。
 ──あと十分で来なかったら帰る。
 この言葉を、幾度胸の中で繰り返した。
 ──今度こそ、本気で帰る。
 二月の中旬頃といえども、やはり外は寒い。制服の上にコートは着ておらずマフラーだけの身では芯が冷えるというものだ。
 手をこすらせて息を吹きかけていると、銀時が息を切らせてやってきた。
「ごめん。遅くなって、」
 高杉は冷たい一瞥をくれる。無意識ながら、ずっと待ち焦がれていたということを隠そうとする表情だ。
「行くか。」
 そう云って、銀時は高杉を車に促す。さりげなく、自分の羽織っていたコートを高杉にかぶせた。高杉も無言でそれを羽織る。
「寒かった?」
「たりめーだ。」
 ぶすりとむくれてマフラーに顔をうずめる。その鼻は寒さのために少し赤くて可愛らしい。銀時は苦笑する。
 車の鍵が開くと同時に、助手席に乗り込む。銀時が車を発進させないのをいぶかしみ、高杉が首を傾げた。
「先生、どうかしたのかよ。ガソリン切れか?」
 前に、ガソリン切れで交差点の真ん中で車が止まったことがあった。その時は本当に弱った。あきれ果ててモノも云えなかった。そこが銀時らしいと思うこともあったが。
「今日、何の日か知ってる?」
「……チョコなんてやんねーぞ。」
 案の定だった。今日は二月十四日。世に云うバレンタインデーだ。恋人達の儀式というような感じで浮き足立っているが、もとはチョコレートだか菓子だかの製造会社が売り上げを期待して作り上げた日だ。そんなことも知らずに、そわそわと浮き立つ男女は莫迦莫迦しいものだ。
 だから、高杉がそんな物体を用意している筈もなく。
「うん、そうだろうね。」
 そう云うと、銀時はごそごそと鞄を開けたと思うと、真っ白な包装をしそれが引き立つような真紅のリボンのついた小さな箱を取り出した。
「高杉がくれないだろうか、代わりに、俺があげようと思って。」
 銀時が高杉の掌にそれをそっと置く。
「……莫迦じゃねーの。」
「まぁ俺もそうとも思うが。」
 好きなんだからしょうがねーじゃん、と心の中で呟く。
「受け取って?」
 三十近い大の男が、女子高校生に混じって、チョコを選びプレゼント包装を頼んでいる風景が高杉の睛に浮かぶ。その姿はもう滑稽だというより憐憫を誘う。
「……貰っとく。」
 高杉はそっとそれを薄っぺらな鞄に入れた。少し嬉しかった、というのは銀時が知る由もない。
「じゃ、俺の家に行きますか。」
 受け取ってもらえたことに安堵し、銀時が車を進める。
 高杉が左の外の風景を眺めているのは、照れを隠しているためだということを銀時は気付いていた。
 今日の夜は、きっと普段より大胆なことをしても許されるに違いない。
 銀時はにまりと笑った。









莫迦っぽい……。
でも、こういう感じカワイイよね……。というか高杉がかわいいよね。
チョコをくれないのわかっているから、俺があげる、というのは、
某楠本まき氏の某Kissという漫画の某おるこさんとカニちゃんからとりました。
……知っていますかね?
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