要らぬ子要る子                                   



「あ、退。」
 久しぶりの声に、山崎は微笑を浮かべて振り返った。
「こんにちは、高杉さん。」
 暫く前から、二人はとある縁があって懇意になった。一見怖くて近寄りがたい高杉だったが、いざとなって近しい存在になってみると、親しみの持てる人柄だった。山崎の性格に、おおらかな彼の性格がよくあうのだろう。
「無事で何よりでした。」
 彼は過激派攘夷志士だから、幕府からは要注意されている。だから、一度会って別れるときは、次は会えるのだろうか、と一縷の不安がつきまとう。最も、そんなことに恐怖を感じるのは山崎のみだ。
「退。どこか行こうか。……時間ある?」
「あ、はい。」
「奢るぜ、」
「いえ、そんな……、」
「奢らせろ。」
「では、よろこんで。」
 二人は連れ立って歩いた。
「退、」
 そう名を呼んで、高杉が山崎の肩にてを回した。そのまま引き寄せるようにしながら歩く。
「……あの、」
「ん?」
 笑顔にどきどきしつつも、山崎は呟く。
「……名前、呼ばないでもらえますか。……その、……俺あまり自分の名前が好きではなくて……、」
「要らない子、みたいな名前だから?」
 俯いて、山崎は頷いた。
 すると、高杉が耳元に口を寄せて囁いた。
「たとえ要らない子でも要る子でも、俺がお前を必要だから。……それじゃ不満か?」
 耳元にかかる吐息が温かい。
「いえっ、……全然。」
 山崎が恥ずかしそうに嬉しそうに微笑んだ。真っ赤な頬に、少しだけ、高杉は唇を寄せた。すると山崎は焦って身体を離した。
「あの、高杉さん。こんなところで……、」
「じゃあ、続きは後で。」
 肩に乗せた手をそのまま滑らして、今度は腰に手を回した。
 山崎は、茶屋では氷菓子を注文しようと思った。火照った顔を身体を、冷たい菓子が静めてくれる筈だ。









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  書いてしまいました。世にも珍しい高山。
  今では銀高にはまっているので、なかなかこっちは微妙……。