夏の日の涼                                   





「なぁお前、」
 銀時に声をかけられ、いたのか、と高杉は後ろを振り返った。
「護るモンがねェっつうのは嘘じゃないのか?」
「ホントだぜ? 俺が何護るっつうんだよ。」
「ヅラは違うのか?」
……あぁ、コタローちゃん??
 そう云って、高杉は苦笑した。
「や、護りたいのはやまやまなんだけどね、アイツ嫌がるから。……ちょっとォ、銀時聞いてくれる?このまえさぁどこだかとヅラ達が戦争してさ、俺も暇だったからちょっくら混じってみたのさ。したらアイツやられそう──犯すじゃなくて殺されるのほうだぜ──だったから、俺が助太刀して庇ってやったのよ。で、恩着せがましく怪我の処置させて、あわよくば床になだれ込もうって算段よ。」 
 酒でも入っているかのように、高杉はベラベラと喋った。
「したらサ、アイツ怪我人に向かって、ビンタくらわすの。拳骨じゃなかっただけまだマシだけどさァ。」
「おおかた、何故庇った、庇われるほど弱くない、って怒ったんだろ、」
「ご名答。コタローはそういうトコロあるもんなぁ、素直にお礼くらい云っとけばいいのになァ。」
「まぁ、高杉にとっちゃぁ、それがまたいいんだろ?」
「勿論。」
 ふふん、と笑って高杉は言葉を繋いだ。
「だからな、俺はコタローを護る側じゃなくて、コタローに護ってもらおうかと思って。」
……絶対護ってくれないから。」
「ウン、俺もそぅ思う。現実ってつらいよな。」
「そうだよ、つらいんだよ。俺も家賃半年以上滞納しててさぁ。……パフェ奢ってくれない?」
「ッテメ、俺のピュアハートとパフェを比べんじゃねー。だいたい俺だって、昨日コタローにあげようと思って簪を買って財産すべてなくなったところだ、」
「簪って……。お前そんなんだから、ヅラに相手してもらえないんだよ。」
「まぁまぁ、アイツも照れてんのサ。」
 コイツ救いようがないと思った銀時であった。


 暫く二人で歩いていると、後ろから走ってくる男がいた。真選組副長の、土方である。
「オイコラ、高杉!! ……なんだよ、坂田銀時までいるじゃねェか。今回の事件は、お前も絡んでるんじゃないのか、高杉?あのジイさんの子供がお前の鬼騎兵隊に入っていたのは、すでに調べがついている。」
「あれま。……なぁ銀時。コレ、俺の二号クン。」
「そーなの?」
 高杉が、土方を親指で挿しながら銀時に云う。土方は眉を吊り上げる。
「あァ??!! 誰が二号だよ!!
……もしかして、一号がいい? ゴメン、そこはコタローの場所だから。」
「いらねぇって!! コラ!!
……いつの間に、親しくなってるの、多串くんと高杉って。」
「多串じゃねェって!!
「銀時ィ。結構いいんだぜ、 コイツ。なんなら今度三人でも……、」
 高杉の言葉は、土方の繰り出した拳で止まる。そのまま、土方は刀を抜いている。
「悪い、ウソウソ。……あ、ちょっと危ないって!!
 叫びながら、高杉は逃げていった。追おうとして、土方は諦めて溜息をつく。
 ボリボリと銀時が頭を掻く。
「へェ。二号だったんだ、」
「違ェって!!
「でもヤってるんでしょ?」
「う……、」
 これ以上話していてはこちらの身がヤバイ、と土方は大人しく退散することにした。
 できれば、これから、高杉と銀時がそろっている時に二人に会いたくないと思った。
 屯所に戻れば、沖田に、高杉を逃がしてしまったことを莫迦にされさんざん云われるのだろう。そのことを思うと、一層溜息をつきたくなった。













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