ロイ。
 イールフォルトの家から徒歩訳二十五分の某中学生二年生。十三歳。
 家族構成、不明。母親はイールフォルトの姉の友人。
 ただ今、イールフォルトのマンションに滞在中。
 莫迦面。よく喋る。












     stay-with        



        stay-with    002  

























 朝目覚めた時に感じたのは不自然な心地。右肩を下にして寝る癖がある自分のすぐ隣に、芋虫のように丸くなるそれは。
「こんのカスがぁぁぁ!」
 イールフォルトの叫びに、芋虫はビクリとし跳ね起きた。
「何?!」
「何、じゃねぇ。人の蒲団に入るなと何回云ったら解るんだ、このカス。」
 ロイがイールフォルトの家にやってきてから三日目。もう三度も同じ朝を繰り返した。
 ロイには、物置と化していた一室を少しばかり片付け其処を宛った。ベットはではないが、温かい蒲団を与えてある。それにも関わらず、何度怒鳴りつけても、イールフォルトが寝ている間に、潜り込んでくるのだ。
「寒いんだもん、」
「俺の高級羽毛を貸してやっただろ、」
「イールフォルトのが暖かいよ、」
「俺はセックスの時以外の人肌が嫌いだ、」
 イールフォルトはロイをゴロリと投げ出すと、自分もベットから出た。
 六時三十分。普段の起床より三十分早い。毎日六時間寝ると決めているイールフォルトの生活は乱されっぱなしだ。睡眠時間が少しでも短いと、肌の調子がおかしいような気がするし、目の下も気にする。
「俺、二度寝する。」
 そう云って、ロイがゴソゴソとイールフォルトのベッドに潜る。即座に、目を釣り上げたイールフォルトに蒲団を剥がれた。
















「なぁ、イールフォルト、」
 朝食の時間。食事中、少しも黙ることなく喋り続けるロイに向かって、イールフォルトは眉を顰めながら無視を続けた。
「なぁ、イールフォルト、イールフォルト。……イール、」
「連呼した挙げ句、略すな。」
「だって、イールフォルトって長くて呼びにくい。」
「お前の名前が短すぎるんだ、カス。」
 カスと呼ばれて少ししゅんとするロイをイールフォルトは見つめる。
 中学二年生だと云ってはいたが、あまりにも幼い。小学三年生と云っても通じそうだった。身長はおそらく一五〇あるだろうか、細いと云うよりも痩せているという印象を受ける四肢。表情はあどけない。白いというよりは青白い肌に、目の下には隈がある。髪は日焼けしたような色で、右目を隠している。すべてが不健康そうだった。健康及び美容には気を使うイールフォルトは信じられない。
 食事を終えて、学校へ行く用意をする。イールフォルトはワイシャツ、セータを着込みネクタイをする。
「俺、ネクタイ結べないさ。いいなぁ、俺もブレザーがいいなぁ。学ランってなんか厭だ、」
「……人のを見ていないで、お前も着替えろ。」
「学校は暫く臨時休校だって一昨日云ったじゃん、」
 イールフォルトは、ロイの両耳を引っ張った。
「昨日な、帰るときお前の学校からチャイムが鳴っているのが聞こえたぞ、コラ。」
「気のせいじゃ……、」
「着替えろ。……俺はなぁ、お前が学校嫌おうがサボろうが構わないがな、俺は姉貴にお前を頼まれてるんだ。俺が姉貴に殺される、」
 抵抗するロイを押さえつけ、イールフォルトはロイに制服を着せた。
「出掛けるぞ、」
「えー、まだ早い、」
 始業時間三十分前に学校に着いちゃう、とごねるロイを睨みで一蹴した。
「俺は早くない。出掛けるぞ、」
 学校に行くと一緒に家を出る、まるで仲が良い兄弟ですねとも見受けられる、イールフォルトにとっては最悪の朝だった。