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  イールフォルト。
 某高校普通科第三年生。十八歳。
 部活は帰宅部。
 家族構成は父母に姉が一人。
 ただ今独り暮らし中。
 彼女の数は不明。年上が多い。












     stay-with        



        stay-with    001  





















 勝手気儘な姉から手紙が来ているとイールフォルトが気付いたのは、今日の午前一時頃。夜遊びをしての帰宅時にそれを発見したのだが、極度の疲労から制服を脱ぐとすぐにベットに入って、手紙は読まなかった。
 朝目覚めたのは八時を過ぎた頃。学校は自転車で通える領域内だが、朝食を取る時間もない。手紙の存在は忘れ去られ、昨日投げ捨てた今の机の上に置かれたままだった。
 学校が終わるのは四時半頃。今日は珍しく何の予定も入っていないので、そのまま帰宅することにした。
 ゆったりと自転車を漕いで帰り行く途中、昨日姉から送られてきた手紙の存在を思い出した。
「やばいな……、」
 イールフォルトの姉は、彼以上に我儘で高飛車だ。送った手紙を直ぐに開けなかったのでは、文句を云われそうだ。もしも、その内容が急なことだったのなら尚更。
 メールで送ってこないこと自体がそもそも変だったのだ。
 何だか厭な予感がした。
 イールフォルトは帰って手紙を読むべく自転車を急がせた。

















       



 おかしい。
 とまず最初に思った。
 玄関の鍵が開いていた。
 今日は遅刻しそうで急いでいた。だが、そういう時程不備は起こりやすいので、逆に普段より施錠は気にして出掛けている。今日も、鍵を掛けた記憶はしっりと残っていた。
 付き合いのある女性達に合い鍵は渡さない。
 好くない考えが頭を過ぎる。
 空き巣。
 このマンションは比較的水準が高い。狙われるのも無理がないかもしれない。
 イールフォルトはそぉっと、扉を開けて中に入る。人は居ないか、中の様子を窺う。暫く耳をすますが、物音はない。靴も置いてなかった。
 足音を忍ばせて居間に行く。通りすがりに覗く室も居間も、荒らされた様子はない。そして、自分の室とは別のもう一室。そこは物置と化していたが、貴重品はそこに保管している。
 貴重品は一カ所に保管しない。カードは、一枚ずつ別々のCDケースの中。通帳は、クローゼットの中の洗濯に出した後でビニールのかかったスーツのポケットの中。この気の入り用は、昔、家族四人で暮らしていた頃、脳天気な母が鍵を掛け忘れ空き巣に入られた過去に起因する。
 全て点検したが、なくなっている様子は何一つない。
 何だったのだろう。矢張り施錠し忘れたのだろうか。
 そう思って居間に戻る。
「……うッ、」
 そこでハッとする。
 先までは急いていた所為か気付くことができなかった。黒い服でソファーの色に同化していた所為か体が小さい所為か、存在感の薄さに、人気を感じなかった。 居間のソファーの上に、見知らぬ少年が躰を丸めて眠っている。
痩せた躰。呼吸は薄い。
 空き巣には見えがたい。けれども、勝手に上がり込んで眠りこけるとは何ごとか。イールフォルトは妙な不法侵入者に首を傾げた。
「……おい、」
 この少年になら間違っても殴り倒されたり脅されたりすることはないだろうと、イールフォルトは少年を揺さぶった。
「……ん、」
 少年が眼をしばしばさせながら、体を起こした。
「……お早うございます、」
 少年は寝ぼけ眼ながらも、イールフォルトを見て礼儀正しく挨拶した。
 黒い詰め襟の学生服。歳は自分より大分離れているように見える。
「……お前誰だ。何故此処に居る。不法侵入だ。解ってるのか、ガキが、」
 ぶっきらぼうなイールフォルトの態度に、少年は一瞬怯んだようだったが、やがておずおずと口を開き始めた。
「……えと、俺の名前は、」
「自己紹介など要らねェ。ガキ、何で此処に居る?」
 もともと口が悪い上に、子供は大の嫌いだった。
「あの、今日から此処でお世話になる、」
「あぁん? あ、そっか。ガキ、号室間違えてるんじゃないか。」
 納得顔をして、イールフォルトは少年に号室を教えた。
「あの、お姉さんに此処まで送ってもらったんだけど・・・間違えてないと思う、」
 そう云って、少年はイールフォルトの姉の名を口に出した。
「ああ。俺の姉だが。」
「……もう話ししてあるって、云ってたけど……、」
 イールフォルトは、思い出したように、昨日届いた姉から手紙の封を切った。
 挨拶もなく、ただ短く簡潔に。
『友達の子供なんだけど、理由あってあたしが預かってて、だけどあたしちょっと仕事で海外に行くことになったから、世話お願いね。』
「……ありえないぃぃぃ、」
 イールフォルトは思わず手紙を破った。少年が驚いている。
「あんのアバズレがぁぁ!」
 姉がメールではなく手紙にした理由が解った。イールフォルトがこまめに郵便ポストをチェックするタイプではないことを、姉は知っている。だから、手紙だと事後承諾が可能なのだ。少年を送り込んでさえしまえば、成功するのだ。聞いていない、急な話だ、と云っても、大分前に手紙で知らせたわよ、と云えば済むのだ。
 イールフォルトは直ぐさま、姉に連絡を取った。
「姉貴、何のつもりだ。」
『あぁら、手紙に書いてあるでしょ。断りの連絡も寄越さなかったし、』
「俺が子供嫌いなの知ってるだろ。断るぞ。」
『もう無理よ。あたしあと五分で飛行機乗るから。』
「ふざけんな、」
『あんた断る権利あると思ってンの?』
 姉が蛇睨みをきかせている様子が見える。イールフォルトは口を閉じた。
『じゃあ、お願いね。大事な友達の子供だから、何かあったら殺すよ。』
 お願いね、のところは気持ち悪く語尾にハートをつけているのに、最後の言葉には絶対零度の響きがあった。
 姉は云いだしたら、その姿勢を変えることはできない。それは弟であるイールフォルトが一番解っていた。もう、諦めるしかないということだろか。姉の傍若無人ぶりには、閉口することすら忘れる程だ。
 イールフォルトがショックに呆然としていると、少年は礼儀正しく三つ指をついた。
「俺の名前は、ロイ。よろしくお願いします、」
 イールフォルトは呆然としたまま、意識もなく頷いた。




 この日から、イールフォルトとロイの妙な同居生活が始まった。