天職だと思った。
寂しい女性に、一夜の、夢と愛を与える。
睦言と吐息で彩られる時間。
まるで恋人同士の時間。
それが、譬え何枚かの紙幣に約束されたものだとしても。
仮初めのものだからこそ、燃え上がるモノがある。
面倒はない。
仮初めだからこそ、そこに愛の夢を見ていられる。
イールフォルト。二三歳。
職業は、ホスト。
stay-with
知らされた住所と名前を表札と確認して、イールフォルトはチャイムを鳴らす。
「イールフォルトです、」
出逢いの瞬間。少し高揚感がある瞬間だ。
譬えどんな女性であっても、イールロフトは「愛」と「夢」を平等に与える。
一番や特別、はない。
イールフォルトはもう夢を見たい訳ではない。望んでもいない。寧ろ、一時の仮初め、に小さな高揚感を感じる方だった。
「どうぞ、」
……ん?
イールフォルトは頸を傾げた。
応対した声は男の声だった。それも、若い、少年のような。ドアを開けてイールフォルトを迎えたのは、少年だった。この少年が弟なのか息子なのかは知らないが、こういう少年が居るというのにホストを呼ぶ女の神経が解らない。
「あの、……ロイ、さんは、」
「俺が、」
ロイだ、と少年が云った。
読んだのはこの少年の母でも姉でもなく、この少年本人らしい。
――おいおい……冗談かよ……。
イールフォルトは即座に踵を返した。
見たところ、中学生、高校生だろう。そんな奴がホストを呼ぶなど、悪戯の何でもないと思うのは自然のことだろう。しかも、男、なのに。
「何で帰ろうとするんだよ、」
少年が、イールフォルトの肘を引いた。
「アンタ、仕事だろ。俺はアンタにお金を払ってるんだ。」
――子供は嫌いだった。生意気なら、尚更。
少し細いのと不健康そうではあるが、見たところ、何処にでも居そうな男子高生だ。
――ただの物好きか。
上目遣いに睨んでくる、それは、まるでただの強がりにしか見えない。
見下ろして、見つめ返す。
何だ。不健康そうではあるが、思った以上に可愛い顔をしている。
そのまま、イールフォルトは唇を落とす。
柔らかい。
息を洩らした瞬間に舌を入れて、口内を蹂躙する。
唇をなぞる。
舌を絡める。舌の先から、奧へ、先へ。
そして、最後に上歯茎にそっと舌を這わす。
「……んッ……、」
堪えていた声が洩れた。
――ふうん。ガキのくせして、案外、好い声が出せるんじゃねーか。
僅かに顔を離して見ると、瞳は僅かに潤み呼吸は乱れている。
それでも負けじと睨み返してくる。その時点で既に敗北。
そして、イールフォルトはその瞳の裏に、怯えのようなモノが潜んでいるのに気付いた。
――所詮、子供、か。
「何笑ってるんだよ、」
鼻で笑ったのがばれていたらしい。
「……泣くんじゃねぇぞ。」
――子供も男も大して趣味ではないが、まぁこれも一興。
「泣かないよ、」
グッと睨んだような睛。
何と云うのだろう。
新雪で、誰の足跡もついていない真っ白で平らな地を見ると、つい自分の足跡をつけたくなる。それに似ていた。
この生意気な鼻っ柱を折りたい――。
淡い加虐心が湧いた。