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 頬を軽く叩かれる感触で、目が覚めた。
 初めに目に入ったのは、妙にキラキラしたシャンデリア、次は真横に置いてあるランプ。そして、次に見えたのは、無表情な痩せた男の顔だ。
「目が覚めたか。」
 男が義務じみた口調で訊いてくる。
「調子はどうだ、」
「んんん、体中が痛ェ。」
 全身に傷を負っているのだ。無理もない。
「つーか、アンタ誰だよ。」
「私は、シャウロンと云う。此処の家の執事だ。此処のご子息にその怪我を心配され、家に連れてこられたのだ。」
 無論、「犬」として拾われてきたのだ、とは云える筈もなかった。












     stay-with        



        le maitre et son chien   002





















 
「まず、風呂に入ってもらおう。私についてこい、」
 シャウロンの言葉に、「犬」は黙ってついてきた。
 シャウロンは、自分の横を歩くその「犬」をこっそりと見つめた。
 ――如何にも、育ちが悪い。
 怪我で足を引きずってはいるが蟹股の足運び、目付きや顔付きはお世辞にも良いとは云えない。頭も良さそうには見えない。口も悪かった。下街でよくみる不良かごろつきのようだ、とシャウロンは思う。
 ――何故ウルキオラ様はこんなのを。
 ウルキオラの突拍子もない妙な行動には、皆閉口するばかりだ。
「お前、名は。」
 その問いに、「犬」は些か構えたような表情になる。しかし、一応の恩人に名すら名乗らないのは多少の非礼になると考えたのだろうか。小さく呟いた。
「……グリムジョー、」
「姓は、」
「……忘れた、」
 その表情を見て、この男には何かある、とシャウロンは思った。しかし、それ以上は何も聞かないことにした。どうせ自分がどうこう云おうと、今更ウルキオラの考えが変わる筈もないことを、知っているからだ。
「ここが風呂場だ。湯は張ってある。石鹸なども自由に使うが良い。」
 そう云って、シャウロンはタオルと着替えをグリムジョーに渡す。
「私は外で待っている。すんだら、呼んでくれ。医者を呼んでおくから、」
「……悪ィな、」
 あっさりと侘びられるとは思っていなかったので些か驚いたシャウロンだった。殊の外、この男は非礼ではないのかもしれないと思った。

















「イテェ、テテテ……、」
 左足を持ち上げられて、グリムジョーは声を洩らした。
 呼ばれた医者が、グリムジョーを診断する。
「ふむ。左足首を捻挫していますな。あとは取り立てて目立った外傷はありません。擦り傷と切り傷程度です。」
 医者は手当をして、帰っていった。
「大丈夫か、」
「……まぁ。」
 グリムジョーは足を引きずっている。しかし、歩けない程ではないらしい。見栄を張っている、というのもあるだろうが。
 シャウロンは、取り合えずグリムジョーに一室をあてがって、其処で暫く休めさせることにした。
「何かあったら、傍のメイドに声をかけてくれ。食べ物は置いておく。」
 そう言葉を残して去ろうとするシャウロンを、グリムジョーが呼び止めた。
「あ、あの……俺を此処につれてきた、その、ご子息というのは、」
「ウルキオラ様だ。」
「……礼を云いたい。」
 自分が拾われた本当の理由はつゆ知らずで、思いの外の態度に、シャウロンは同情を覚えた。まさか、自分がこれから「犬」になるなど、まったく考えている筈もないのだから。
「今は父上と共に出掛けているところだ。夕刻には帰ってくる筈だ。その時にはまた此処に来る、」
 ウルキオラは、父親の挨拶周りにしぶしぶついて行かされているところだ。ウルキオラは長男であって兄弟もいないため、次期当主となる。そのための付き合いを手伝わされているのだ。
「折角、犬を拾ったところだったというのに……。」
 と、ウルキオラはぶつくさ文句を云っていた。ウルキオラはあまり出歩くのは好きではないし、人々におべっかをかくのも好きではない。
「まあ、戻ってきてから相手をすれば良いではないですか、」
 そう云いながら、ウルキオラがいない間、自分があの「犬」の相手をしなくてはならないのか、と閉口したものだった。
 その「犬」は思っていたよりも暴れ馬ではなかったようだ。
「それでは、またあとで。」
 シャウロンは、グリムジョーを部屋に残して、其処を去った。