Distance   003





















 ウルキオラが、はっ、はっ、と声を洩らしながら、悩ましげに眉を寄せた。
「……先輩、どうしてほしい。」
「……ふざ、けるな、」
「云ってよ。望む通りにしてあげるよ。」
「…………触らせて、やる。」
「……正直じゃないなぁ。」
 そういう下手に出たくないと頑張るところが、また可愛らしい。
 イールフォルトは、ウルキオラの昂ぶりをそっと握った。
「あっ、」
 不意に洩れる歓喜の声。そして、洩らしたことを悔いるような、唇を噛む様子。
 ――もう、何もかもが可愛い。
 イールフォルトはたまらくなり、逸る気持ちを抑えて、ゆっくりとそれをしごき始めた。
「……あっ、あっ、あっ……ん、」
 次第に早めていく。それに合わせるように、ウルキオラの呼吸が速くなる。
 ウルキオラの先端から洩れる蜜を、イールフォルトは己の指に擦り付け、それを潤滑油として、ウルキオラの後腔に指を一本潜めた。
「んんっ、」
 前と後ろを同時に責める。
 たまらない、というように、ウルキオラが腰を揺らした。下を向いて唇を噛み、必死で快感を堪えている。
「……もう、いい……早く挿れろ、」
 ウルキオラそう云う時は、発射が近いということだ。指だけで果ててしまうのは、どうも敗北感があるらしい。
「まだ、駄目。」
「……イールフォルト、」
 熱の籠もった瞳で縋られ、熱の籠もった声で名前を呼ばれる。こんな快感は、ない。
「先輩、震えてるよ。」
 もう、ウルキオラはイールフォルトに対応する術を持たずに、熱の放射を堪えようと必死だった。
 一際早く強くそれを握り締められ、潜められた二本の指を奥深くに突かれた瞬間、ウルキオラは声もなく果てた。
 白濁が、イールフォルトの腹や胸を汚した。
「先輩ヤラシイ……。」
「お前の、方だろ、それは。」
 ウルキオラの方は、息も絶え絶えだ。
「……今日、すました顔で演説した優等生君が、こんな……エロオヤジだってみんなに教えてやりたいよ。……みんな見掛けに、騙されてやがる。」
「それを云うなら、先輩だって。……静かで、潔癖でストイックな先輩が、人の腹の上でこんなにもイヤラシく腰を振ってるんだ、って見せびらかしたいよ。」
「……黙れ、って、」
 艶を持った瞳で睨まれても、怖いというよりは、欲情、するだけ。
 イールフォルトはズボンのチャックを開けた。肉棒が硬く勃ち上がる。
 イールフォルトは、ウルキオラの腰を持ち上げた。
「……お、い、」
 既に解されたウルキオラの孔に、先端を埋めた。
「あっ……、」
 ウルキオラの躰が強張る。
 イールフォルトは己のそれをウルキオラの内壁に擦り付ける。そして、ゆっくりとウルキオラの腰を埋めさせた。
 イールフォルトの硬化した肉棒がウルキオラを貫いた瞬間、ウルキオラは堪えきれず悲鳴を洩らした。  



















「俺さぁ、」
 とイールフォルトが呟く。
 事後の後のまどろんだ時間。二人は蒲団に横たわっていた。
「何だ、」
 ウルキオラが訊き返すと、イールフォルトは僅かに躊躇ったような様子を見せた。
「……先輩の家の合鍵欲しいんだけど、」
 ずっと前から願っていたことを思い切って口に出した。どうせ冷たく一蹴されるだろうと、口に出せずにいたことだった。
「好きにしろ。勝手に持っていって、作ってもらってこればいいだろう。」
 あっさりと答えが返ってくる。あまりにも簡単に許可が出て、拍子抜けした。しかし、イールフォルトは「合鍵」ということに、そんな簡単な意味を持たせていたわけではない。
「俺、先輩から合鍵が欲しいんだよ。」
 そう呟いて、イールフォルトはウルキオラを抱きしめた。まだ、熱が少し残っている。
「合鍵っつうのは、もっと特別な意味なんだよ……?  本人が居ないときにでも部屋に入れるわけだから、生活全部を見られちゃうことになるし、付き合っているのは貴方しかいない、ということにもなるし、」
「ふーん、」
 と何気なしにウルキオラは答えるが、付き合っている、という言葉に引っかかる。自分とイールフォルトの関係が、付き合っているとは思ったことはなかった。
「だから、先輩が俺にやってもいいって思えるようになったら、俺にちょうだいよ。」
「考えておく。」
 面倒なことは、大抵この言葉で対応する。イールフォルトがそれに気付かない筈もなかったが。
 イールフォルトはウルキオラをもう一度強く抱きしめた。
「……俺、待ってるから。」